プロレス身体論~悩み多き膝1
- 2013年11月27日 |
- プロレス身体論改正版 |
プロレス身体論~肉体的プロレスの見方~
第三章 悩み多き膝1
「膝が痛い」レスラーのこんな言葉を聞いて、どんな痛みを想像するであろうか。過去も現在も膝に痛みを抱えている選手は多い。武藤敬司、棚橋弘至、内藤哲也、多くのレスラーが手術を経験している。引退した小橋健太さんも数度の手術で苦しんだ。
彼らの痛みを想像するには、膝という神の造り上げた特殊な関節を理解しなくてはならない。
骨と骨を接ぐ関節には相反する二つの働きがある。 動かすということと支えるということである。動くときには関節を滑らかにし、支えるときには関節をしっかりと安定させなくてはならない。
運動機能と支持機能、この相反する二つの働きを繰り返し行っている代表的な関節が膝関節である。歩く動作を思い浮かべてもらいたい。片脚を挙げるためには膝を曲げなくてはならなく(運動機能)、残った片脚で体を支えるには膝の支持力を高めなくてはならない(支持機能)。
しかしながら、大腿骨と脛骨で構成される膝関節は他の関節と比べ著しく不安定に造られている。よってその働きを、前・後十字靱帯、内・外側側副靱帯などといった多数の強靱な靱帯と内・外側半月板に頼ることとなる。そしてその構造がねじりという動きを膝にもたらし、走ったり、ジャンプしたり、方向転換をしたりという複雑な動きを可能とさせている。
ロープに走るとき、ドロップキックを放つとき、相手の技をかわすとき、膝関節はその巧みな構造を駆使している。しかしその構造を駆使すればするほど、膝関節は危険にさらされることとなる。機能の多くを靱帯や半月板に頼っているため、その損傷は大きな痛手となるのだ。
膝を負傷した選手の中で一番多く行われている手術が半月板の部分切除である。棚橋選手も2度この手術を行っている。
では半月板とはいったいどのようなものなのか。半月板は内側と外側に二つあり、ある程度の堅さと弾力性を持っている。半月板の役割は、一つが衝撃を吸収すること(衝撃吸収装置)、そしてもう一つ、これが重要なのだが、ねじりや衝撃などから関節面がずれないように安定させることである(安定機構)。
膝をねじりながら強く曲げたときに、半月板が大腿骨と脛骨の間に挟まれて損傷するというのが典型的な半月板損傷のパターンである。この場合、内側半月板の方が損傷される率が高い。半月板は血行状態が悪く再生能力が少ないため、傷ついた半月板は治ることなく、繰り返しの刺激によって傷は更に広がって行くこととなる。症状としては、膝まわりの筋力低下、歩いていて突然膝の力の抜ける膝崩れ、割れた半月板が関節を動かなくしてしまうロッキング現象などがみられる。
もうひとつの心配は、割れてめくれた半月板が関節面や靱帯を引っ掻いて傷付けてしまうことである。痛みは少なくとも、ロッキングを繰り返す膝では将来を見据えた判断が必要となる。
半月板の手術は、以前は膝を開いて半月板自体を取り除いていたのだが、最近では内視鏡による最小限の部分的切除が行われている。(まれに断裂場所が血行良好で修復しやすい場所だった場合のみ切除せずに縫合する場合もある。)
内視鏡による手術法が発展してから、半月板手術後の早期復帰が可能となっている。また、最近では保存療法も見直されて来ている。
人体の膝を構成する半月板、それはレスラーの多くを悩ませる小さくも大きな存在である。(膝の章続く)